平塚市美術館「安野光雅展」絵本とデザインの仕事
2019年7月6日(土)より8月25日(日)まで、平塚美術館で『安野光雅 MITSUMASA ANNO展 絵本とデザインの仕事』をやっています。
その展示の様子や安野光雅氏の絵本などについて紹介します。
目次
『安野光雅 MITSUMASA ANNO展 絵本とデザインの仕事』
パンフレットより
1968年に『ふしぎなえ』で絵本デビューをした安野光雅(1926- )は、画家、絵本作家、装丁家、デザイナーなど幅広く活躍し、国際アンデルセン賞をはじめ、国内外でさまざまな賞を受賞しています。
安野光雅の作品は、俯瞰的な構図を用いながら細部まで丁寧に描かれており、まるで、出身地・島根県津和野の町を周囲の山々から一望し、人々の暮らしの一コマを描き留めているように感じられます。作家にとって、子どもの頃を過ごした津和野は大切な思い出として心の中にあり、花や草木を愛でるように、大切にはぐくまれた思い出が絵本の世界に投影されています。親しみやすさとノスタルジーにあふれた絵本は、今なお大人から子どもまで多くの人々を惹きつけてやみません。
多数の絵本を世に出してきた安野光雅ですが、美術のみならず数学や文学にも造詣が深いことでも知られています。その豊かな知識と想像力でたくさんの不思議や謎解きを作品に詰め込んでいます。驚きと発見に満ちた絵本もまた安野の魅力といえるでしょう。さらに、絵本以外にも文芸書や数学書などの挿絵や表紙を描いたり、エッセイや画文集を出版したりなど作品は多岐にわたります。
本展覧会では、①不思議な絵、②自然科学の絵本、③昔話・ものがたり、④デザイン、という4つの視点から、安野光雅の仕事を語る上では切り離せない絵本の原画はもちろんのこと、絵本そのものや挿絵や装丁した本、ポスターなども展示し、初期から現在までの安野光雅の世界の全貌を紹介します。
安野光雅氏ってどんな人?
安野光雅(あんのみつまさ)
子供の頃より画家への夢を抱き、美術のみならず、科学・数学・文学などにも造詣が深く、豊かな知識と想像力を駆使して独創性あふれる作品を発表してきた。
原色や派手な色をほとんど使わない淡い色調の水彩画で、細部まで書き込まれながらも落ち着いた雰囲気の絵を描いている。
主な著書に、『ふしぎなえ』、『繪本平家物語』、『天動説の絵本』、『空想の絵本』、『ABCの本』、『旅の絵本』、『算私語録』、『空想工房』、『空想書房』、『わが友 石頭計算機』(『石頭コンピュータ』としてリメイクされている)など。
森鴎外の翻訳『即興詩人』(アンデルセン原作)の熱心なファンで、舞台となったイタリアの紀行文『繪本即興詩人』を発表している。
【略歴】
1926年(大正15年)3月20日、島根県津和野町の旅館を営む家に生まれる。
1940年(昭和15年)山口県立宇部工業学校(現・山口県立宇部工業高等学校)採鉱科に入学。
1944年1月、宇部工業学校を繰り上げ卒業、住友鉱山に就職し忠隈鉱業所(飯塚市)へ。
1945年4月応召、香川県王越村(現坂出市)にて上陸用舟艇の秘匿場建設に従事。
復員後、1946年、敗戦直後の混乱期に無資格のまま山口県徳山市(現・周南市)で小学校の教員を務める。
のち山口師範学校(現・山口大学教育学部)研究科を修了。
1949年(昭和24年)に美術教員として上京。
約10年間三鷹市の三鷹市立第五小学校や明星学園や武蔵野市立第四小学校で教師を務めるかたわら、玉川学園出版部で本の装幀、イラストなどを手がけた。
明星学園・国語部、教育科学研究会・国語部会などによる日本語指導(言語の教育)のテキスト『にっぽんご』シリーズの装幀も手がけたのもこの頃である。
この小学校教諭時代の教え子に後の筑摩書房取締役の編集者・松田哲夫がおり、そのつながりで同社の多数の本の装丁をしている。
藤原正彦も教え子であった。
二紀会に所属していたが、食べるための仕事のために出品できなくなり、1960年代に退会。
35歳のとき教師を辞して絵描きとして自立。
1968年(昭和43年)、42歳の時に刊行された最初の絵本『ふしぎなえ』(福音館書店)で絵本作家としてのデビューを果たす。
『ふしぎなえ』は、1961年にフランスを旅したときに目にしたエッシャーの絵に大きな影響を受け不可能図形の不思議な世界を描き、世界中で評判となった代表作である。
エッシャーからの影響についてはエッセイ「『ふしぎなえ』について」(「空想工房(平凡社)」)で自ら「エッシャーの作品に魅せられて呪いにかかった」旨を述べている。
その後次第に世界的評価が高まり、絵本は世界各国で翻訳された。
文学にも詳しく、著作は多数あり、画家としても数多くの作品を発表し、司馬遼太郎の紀行文集『街道をゆく』の装画も担当した。
大阪府立国際児童文学館(1984年開館)のシンボルマークも担当。
2001年春に、故郷津和野町に多くの作品を、常時展覧する「安野光雅美術館」が開館した。
2011年夏に神奈川近代文学館で、展覧会「安野光雅の世界」が開催。
2015年夏に東京の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で、展覧会「旅の風景 安野光雅 ヨーロッパ周遊旅行」を開催。
wikiより
安野光雅氏の関連映像上映で紹介されていた絵本
安野光雅氏の関連映像が上映されていました(約20分)。
それに出てくる絵本も、とても興味深い本ばかりです。
今回の展示にはありませんが、津和野の安野光雅美術館に展示されているものもあります。
旅の絵本1~9
安野氏は、日本で一番旅をした絵本作家と言われています。
世界各国へ行った旅が描かれた『旅の絵本セット』は、1巻から8巻です。
旅の絵本 (安野光雅の絵本)
中部ヨーロッパの自然や街並みを背景に、旅の楽しさを描きだした絵。
最初の「旅の絵本」です。
旅の絵本2(改訂版) (安野光雅の絵本)
第2巻目は、イタリア編。
「改訂版」は、全画面を着色しなおし、さらに、巻末に作者自身による解説を新たに加え、より美しくて楽しい本に生まれ変わりました。
イタリアの丘や村や町の風景に、イエスの生涯、さまざまな名画、物語などが隠されています。
旅の絵本3 (安野光雅の絵本)
第3巻目は、イギリス編です。
古い歴史の街並みを背景に、ピーター・パンからビートルズまで人気者も総登場。
4巻目は、だれでも知っている昔ながらのアメリカです。
アメリカを舞台にした映画・小・歴史上の人物など、スターやヒーローも描かれています。
美しい景色にユーモアが隠されています。
第5巻は、古くて広い国スペインを旅します。
町の賑わいや田舎の村ののどかなたたずまい、人々の暮らしぶり、遊び、お祭り、闘牛などスペインならではの風景が、繊細な筆致で克明に描かれています。
遊び心いっぱいの隠し絵もたっぷり。
旅する楽しさと発見する喜びがぎっしり詰まった絵本です。
今までののと比べてお子様には少し馴染みのあるお話が少ないので、最初に購入するなら1~4巻の方が良いという声もあります。
大人も楽しめる絵本です。
旅の絵本6 (安野光雅の絵本)
6巻目は、アンデルセンの国、デンマーク編です。
アンデルセンの故郷オーデンセ、首都コペンハーゲン、チボリ公園など、デンマークの見どころをのんびりと旅しながら、アンデルセン童話の世界を楽しむという、とびきり贅沢な旅の絵本です。
「人魚姫」や「マッチ売りの少女」など数多くのアンデルセン童話が随所に隠されてます。
7巻目は、初のアジアを舞台にした中国編です。
絹布に水墨画のように描かれた世界は、今までのシリーズとは全く違う雰囲気です。
まず、旅の男は黄河をさかのぼります。
そして陸にあがると、桂林や敦煌などの町を行き過ぎます。
兵馬俑発掘現場や万里の長城など名所がいっぱいです。
その雄大な舞台の中に、お祭り・結婚・葬式という、中国の人々の日常がしっかり描きこまれています。
旅の絵本8 (安野光雅の絵本)
8巻目の舞台は、日本です。
お花見や田植え、お祭りに紅葉と、季節の移り変わりとともに、電気が普及する前のなつかしい日本の風景が描かれています。
巻末には、あとがきと解説がついており、震災後の日本を応援する気持ちがこめられています。
細かい部分の書き込みが今までのように無くなり少し残念という声もありますが、この絵本が一番好きだという声もあります。
旅の絵本Ⅸ (安野光雅の絵本)
これはセットにない最新刊。
9巻目となる今回の舞台はスイスです。
峠をこえて内陸の国、スイスに入った旅人は、雄大な自然と美しい町並みのなかを、いつものように旅していきます。マッターホルンをはじめとする山々、滝、湖、氷河などさまざまな表情をもつ大自然、そしてのどかな村々や、長く変わらない町の風景が描かれています。
パウル・クレーやカリジェ、セガンティーニなど、安野光雅さんが敬愛するスイスにゆかりのある人物も多く、彼らにかかわるものも、絵のなかにさりげなく描かれています。
ただ、初期の頃と絵柄は変わってしまったという読者の声もあります。
繪本 平家物語
繪本平家物語 カジュアル版
平家の闘った場所、今そこへ行っても昔の風景や戦争の様子は見られません。
それでも、安野氏は、その場所へ行き、また、様々な資料を読んだそうです。
そうすることで、その時の情景が想像力豊かに頭の中に浮かんでくるのです。
そうやって、長い年月をかけ魂込めて作り上げた作品です。
中学・高校の時にこの絵本を読んでいたら、もっと歴史や古典が好きになっていたんじゃないかと思いました。
“諸行無常の響き”を聴きながら
滅亡と新生を繰り返す歴史の中に21世紀の今を問い直す、現代版『平家物語』絵巻
安野光雅美術館(島根県津和野町)開館5周年記念出版“祇園精舎”から“女院死去”まで精密な絹絵と、書下ろしの文章で織りなす、安野光雅の華麗な世界、79場面・143章段を収録。
亡びることは、はかない。しかし亡びることは、新しいものを生みだすことでもある。歴史は滅亡と新生の繰り返しなのだから、詠嘆は、心をとりなおすために必要な、浄化の手段なのであろう。――<著者あとがきより>
※本書は、1996年刊『繪本 平家物語(特装愛蔵版)』を軽装にして再刊行したものです。
Amazonより
繪本 シェイクスピア劇場
繪本 シェイクスピア劇場
安野光雅氏の想像力豊かに描かれたシェイクスピア全戯曲(10の史劇、11の悲劇、16の喜劇)37作品の名場面。
そこに粗筋と名セリフが添えられています。
ハムレット、じゃじゃ馬ならし、夏の夜の夢、ジョン王、リチャード二世、ヘンリー四世、タイタス・アンドロニカス、ロミオとジュリエット、ジュリアス・シーザー、トロイラスとクレシダ、オセロー、リア王、マクベス、アントニーとクレオパトラ など。
シェイクスピアのガイドブックともいえる素敵な絵本です。
展示されていた絵本の原画やデザインポスター
美術館には、安野光雅氏の絵本の原画やポスターなどが展示されていました。
細かな描写も美しく。
不思議な絵は考えさせられ。
特に私が気に入ったのは「切り絵」。
絵を描くだけでなく切り絵も上手で素敵なセンス。
印刷物ではわからない現物に目を奪われました。
以下に展示されていた原画の絵本を紹介します。
ふしぎなえ
階段をあがると上の階へ、またあがると、あれあれ、もとの階にもどっています。
迷路に入っていくと、いつのまにか天地がさかさまに。
蛇口から流れ出した水は川となってまた水道に循環し、高架道路は地面と同じ高さに……。
絵の中だけに存在する不思議な世界に、小人の案内で導かれます。世界的に人気を獲得した絵本作家・安野光雅のデビュー作です。シュールレアリズムの画家であるダリ、エルンスト、ミロに影響を受け、そしてエッシャーによる、精密なる計算のもとに、古典的な遠近法を逆用して摩訶不思議な世界を表現した絵に魅了された画家の安野光雅さんは、一人でも多くの子どもたちにこの不思議な世界を感じてもらいたいと思い、本作品の制作にあたったそうです。この絵本には文字はありません。しかし、これはこの絵本に登場する小人が、見る人によってそれぞれちがった言葉をしゃべり、自由な解釈をもたらすように作用していると安野さんは語っています。子どもから大人まで、安野さんの作り出す世界を心ゆくまで楽しんでいただければと思います。 読んであげるなら:4才から
Amazonより
さかさま
さかさま (安野光雅の絵本)
これどうなっているんだろうと、本を横や逆さまに動かして見たくなります。
トランプのジョーカーがトランプの国をご案内。トランプの国では、どちらが上でどちらが下かわからないことばかり。トランプの兵隊たちは、「きみたちはさかさまだ」「きみたちこそさかさまだ」と何百年も前からけんかしているのです。4人(8人?)の王様たちも大弱り……。そんな「へんだ、だんへ」な国を安野光雅が、見えるままに描きます。「ふしぎなえ」に続くふしぎな絵本第2弾。
Amazonより
ふしぎなさーかす
真夜中の12時。机の上で小人たちによるサーカスが始まります。まずはコップの太鼓、スプーンのバイオリン、マッチ棒のフルートなどの楽団が登場。そしてペン先のジャグリング、風船の玉乗り、書き割りの絵から現れるライオン……。やがて朝になると、小人の姿は消えたけれど……。さまざまな絵遊びが繰り出されます。
Amazonより
もりのえほん
もりのえほん (安野光雅の絵本)
森の風景に、130あまりの動物がかくされています。
隠し絵なので、じーっと見つめていると、だんだんわかってきます。
枝と枝がからまっているのが獣のように見えたり、樹木の肌が人の横顔のように見えたり。繰り返し見るたびに違った景色が立ち現れ、いろいろなものを発見し、想像がふくらみます。
ただ、こういうのを探すのが得意でない人もいるので、人それぞれかと思います。
4歳からで、あまり幼い子向けでは、ありません。
かぞえてみよう
楽しみながら数の知識が身につく絵本。 美しい田園風景を描きながら、はじめて数に出会う子どものために、数字を楽しく見せてくれる絵本。講談社出版文化賞絵本賞など、数々の賞に輝く傑作です。
ボストングローブ・ホーンブック賞
ニューヨーク科学アカデミー児童科学図書優良賞
講談社出版文化賞(絵本部門)
Amazonより
天動説の絵本
地球が全宇宙の中心だと信じていたころの人びとが考えていた世界とは、いったいどんな世界だったのでしょう?
中世然とした作りの、ユニークな科学絵本。
Amazonより
空想工房の絵本
ふしぎな安野光雅のせかい、空想と科学。
蚤の市
表紙に車を引く二人がいます。
この人たちは主人公ではなく、1957年の仏映画「リラの門」の1場面がモデルとなっています。
映画では朝暗いうちに、荷車が石畳の道をガラガラと通っていきます。
まさに、その場面が表紙となっています。蚤の市では表紙の荷車のように古くなったものばかりを売っています。
何でも売っています。
切れた電球やレンズのないめがねまで・・
でも、動かなくなったり使い方が分からなくなったものが多く売られています。
草刈り器や紡ぎ車まで・・作者は分からないものがあったら、お父さんやお母さん、おじいさんやおばあさんに聞いて調べてほしいと書いています。
そして古いお話を聞くことができたら、それがこの絵本の物語だということです。最後に、買った日を書く欄があります。
「もしかしたらこの本が蚤の市にでるかもしれませんね」と書いてあり、印象的な締めくくりとなっています。
Amazonレビューより
昔咄 きりがみ桃太郎
作者の茶目っ気か、桃、犬、猿、きじの登場にひとひねりあり、面白いです。
けれど、これから鬼を退治するに当たり桃太郎が家来たちに垂れる訓示は心に沁みます。
面白ろおかしいだけではない、一本きちんと筋の通った作品です。
Amazonレビューより
まとめ
安野光雅氏の絵本の原画、細かい描写にすごいと思いました。
また、ポスターも素敵でした。
井上ひさし氏とも仕事をされていたのですね。
実は、今まで安野光雅氏の絵本は、「もりのえほん」くらいしか知りませんでした。
紹介した絵本は美術館に置いてありましたが、時間がなくて読んでこれませんでした。
今度は図書館へ行き、「昔咄きりがみ桃太郎」「さかさま」「ふしぎなさーかす」「繪本 シェイクスピア劇場」「繪本 平家物語」など、読んでみたいと思います。
津和野にある安野光雅美術館のホームページはこちら。
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